まず、認知症は
どこを受診すれば
いいのでしょうか?

脳神経内科(#1)・精神科・脳神経外科・老年科、そして勿論物忘れ外来があるところ・・・などであれば、基本的にはどこの科でも大丈夫です。変化を感じたなら、早めにこれら医療機関の受診をお勧めします。その後、必要に応じ以下の所に紹介してもらう方法もあると思います。

〇認知症専門医
※いうまでもなく認知症の専門の医師ですので受診できればそれに越したことはありません。
※参考までに2022年3月時点で、長野市の医療機関に在籍している認知症専門医は、日本認知症学会の認定専門医で6名、日本老年精神医学会の認定専門医で1名います。WEBで検索すればそれぞれの先生のお名前が確認できます。

〇脳神経内科医
※脳神経内科では、認知症以外の神経変性疾患(たとえばパーキンソン病)や脳血管障害(たとえば脳出血や脳梗塞)など多岐にわたる脳の疾患を網羅しており、認知症の原因として最も多いアルツハイマー型認知症(#2)、パーキンソン症状が観察されるレビー小体型認知症、脳血管性認知症など種々の認知症に対応しています。脳神経内科を受診して、そこから必要に応じて他の診療科(#3)に振り分けてもらう流れもあると思います。
※なお2018年の統計によれば、医療施設に従事する医師全体を100%とした場合、それぞれの科の医師数は、精神科医5.1%、脳神経外科医2.4%、脳神経内科医1.7%で、つまり精神科医は医師全体の約20人に1人、脳外科医は約40人に1人、脳神経内科医は約60人に1人となり、脳神経内科医の診察を受けることが難しい地域もあるかもしれません。

〇精神科医
※『幻覚・妄想・焦りの感情・攻撃性』『抑うつ状態・無気力で何もしない』『不安・緊張・ちょっと家族が何かいっただけで怒り出す』『眠れない』『過食・徘徊・介護への抵抗』など色々な精神症状・行動障害がでる方は決して少なくありません。日中なら家族を含む他者との感情的なトラブル・夜間意味不明なことを言って落ち着かず家人が寝させてもらえないなど、ご家族が限界になっているケースもあると思います。そこまでいかなくても精神症状などある方は精神科受診を考えてよいと思います。
※当クリニックは、上記精神症状や行動障害への対応に加え、認知症でしばしば合併する『てんかん』にも対応できますので、お困りの場合はご相談ください。

#1 脳神経内科

日本神経学会では診療内容をよりよく一般の方々に理解していただくため神経内科から脳神経内科という標榜診療科名に変更していくことを決定し、環境が整った施設から順次変更作業を進めています。「脳神経外科」に対し、「脳神経系の内科系の診療科」が神経内科であるということをはっきりさせるため、今後は「神経内科」⇒「脳神経内科」に名称変更していくということです。

#2 アルツハイマー型認知症
のことばの説明

一般向けの本ばかりでなく、医学書でも、『アルツハイマー病』と『アルツハイマー型認知症』という言葉は同じように使われています。両者の一体何が違うのでしょうか? 結論からいうと、違いはあまりなく、ほとんど同じと考えていいようです。元々アルツハイマー病とは1906年にアロイス・アルツハイマーによって報告された40歳代に発症した若年性の認知症のことを指しました。それに対してアルツハイマー型認知症とは65歳以上に発症した認知症に使用され前者とは区別して使われていました。しかしその後の研究で、両者ともに同じ病気であると認識されるに至り、現在ではアルツハイマー病もアルツハイマー型認知症も同じ意味の言葉として使われるようになっています。(そのため、本ホームページでは、以後アルツハイマー型認知症の表現で統一します)。最近の研究の進歩によりアルツハイマー型認知症は『異常なタンパク質が20年ほどの月日をかけて脳内に貯留していき、その結果として気がついたら物忘れなどの症状がでていて、認知症と診断される』という考え方が主流になっています。つまりアルツハイマー型認知症は診断される20年以上前からすでに病気としてはじまっているのですですからアルツハイマー型認知症になりたくない人は、若い頃からしっかりと予防に取り組む必要があります。通常アルツハイマー型認知症を発症する人は65歳以上の方が多いので、であれば45歳前後でしっかりと生活習慣(糖尿病・高血圧・脂質異常症・肥満・喫煙など)を正して、予防を心がけるべきです。

#3 認知症と診療科について

まず認知症を治療対象疾患とする脳神経内科・精神科・脳神経外科についてですが、すごくおおまかに説明しますと

  • 脳神経外科・・・・・脳神経系の外科系の診療科
  • 脳神経内科・・・・・脳神経系の内科系の診療科
  • 精神科・・・・・・・・・基本的にはすべての精神疾患の治療を行う診療科

となります。(ちなみに心療内科は、ストレスや精神的な原因による体調不良の治療を専門とする診療科ですのでここでははぶきます)。
各科それぞれの得意分野・不得意分野がありますので認知症においては各科が協力しての診断・治療が必要なケースもあります。
なお認知症には、『アルツハイマー型認知症・レビー小体型認知症・脳血管性認知症・前頭側頭型認知症』の主として4つのタイプの認知症があります。それぞれ特徴があり、さらに患者様個人個人にも違いがありますので、診療科の選択が必要なことがあります。しかしご家族が最初から患者様の病状を把握することは難しいので、最初に診察すべき受診科はというと、結局、最初の文面に戻り『脳神経内科・精神科・脳神経外科・老年科のどこの科でも大丈夫です』となります。早めの受診にこしたことはないため、家族が認知症かもしれないと思われたら、まずはとにかく思い当たる医療機関に相談してみることをお勧めします。

認知症の代表的な4つのタイプ

認知症には様々なタイプがありますが、以下の4つがその代表例です。


(1).アルツハイマー型認知症:最も多く60~70%程度、
(2).脳血管性認知症:10~20%程度、
(3).レビー小体型認知症:10~20%程度、
(4).前頭側頭型認知症:数%程度

以上の(1)~(4)をまとめて4大認知症といい、この4つで認知症全体の9割を占めます。

以後の文面にでてくる、中核症状周辺症状とはいったい何なのかについて説明しておきます。

●認知症の症状は、中核症状周辺症状の2つに大別されます。

中核症状は大脳の高次脳機能にかかわる障害で、記憶障害・見当識障害・実行機能障害・理解や判断力の障害などを示します。

●認知症は記憶が失われる病気と思いがちですが実際の症状は多彩で行動・心理面の変化が目立ちます。この中核症状に付随して起こる二次的な行動・心理症状を周辺症状といいます。周辺症状は必ず出現するものでもありませんが、出現した場合ご本人にとってもご家族にとっても無視できない症状になります。

(1).アルツハイマー型認知症(ATDと略)

◎ATDにありがちなパターン

  • 70歳以上の発病。
  • 女性にやや多い。
  • 進行していない段階では見た目は普通の人。
  • 歩行障害はない(腰痛・膝痛などによる歩行障害は除く)。
  • 家族が異常に気づいたとき、病状はすでに中等度まで進んでいるということもある。

●中核症状

・記憶障害・・・・・いつ・どこで・何をしたというような過去のできごとや経験を忘れます。
特に数分~数日前の記憶を忘れることが多いです。

・見当識障害・・・・・日時や場所や人物を認識する能力が低下した状態です。

●周辺症状としてでることがある症状

・徘徊・・・・・・・初期から出現、中期以降で顕著になる。

・不潔行為・・・便を手でさわる、入浴しないなどの行為。

・うつ、不安、焦燥

・アパシー・・・うつとは違い悲壮感が目立たず、自発性の低下、無気力、無関心になる状態です。

・妄想・・・・・・・特に物盗られ妄想

⦿てんかんの合併率10~20%、発症時期はATD発症早期。

(2).脳血管性認知症(VaDと略) 

◎VaDにありうるパターン

  • 60歳代からの発病が多い。
  • 男性にやや多い。
  • 見た目は元気なく不器用な感じにみえる。
  • 歩行障害/飲み込むときにむせるなどの嚥下障害/発語の障害による会話の障害がある。
  • しっかりできる部分とできない部分がある。
  • 喜怒哀楽の感情変化を抑えることができず場違いに泣いたり笑ったりする。
  • 夜間になると意識が混濁し別人のような行動をする。

理解や判断力の低下実行機能障害意欲低下が主たる症状ですが、脳梗塞や脳出血などの再発のたびに悪化し症状が段階的に進行します。たとえばの例として 「歩行障害➡意欲の低下➡構音障害(発語の障害)➡より進行してから記憶障害や尿失禁」が出現するなどはVaDの割とありうる経過です。

※動脈硬化が基礎になって起こるものであり、加齢と生活習慣病(高血圧・糖尿病・脂質異常症)が危険因子になり得ます。つまり生活習慣病の延長線上にある認知症と言えます。

●中核症状

・実行機能障害(遂行機能障害)・・・
物事を順序だてて実行することが難しくなり、仕事や家事などの段取りが悪くなる.2つ以上の行動が同時にできなくなるなどの場合もあります。

・失認・・・目や耳に異常がないのに、見ているものや聞こえる音に対し正しく認識できなくなる状態をいいます。

・失行・・・手足の麻痺などがないのに簡単な日常生活ができなくなる状態です。たとえば衣服を着たり脱いだりができなくなる着衣失行などがあります。

・失語・・・大きく分けると、ことばを発することの障害(運動性失語)とことばの理解の障害がありますが、VaDでは運動性失語が多く語彙(ごい)が少なくなり、意味のある言葉を話せなくなるなどがあります。

○周辺症状としてでることがある症状

・無為、無反応

・アパシー・・・うつとは違い悲壮感が目立たず、自発性の低下、無気力、無関心になる状態です。

・うつ

・徘徊・・・・・・・夜間せん妄による夜中の徘徊が多い。

⦿脳卒中後のてんかんの合併率6~12%などの報告あり

※なおこの数値は、脳出血・脳梗塞などの脳卒中後のてんかん発症率であり、VaDでの発症率とは異なります。逆にいうとVaDでのてんかん発症率を検索することは極めて難しいとも言えます。

(3).レビー小体型認知症(DLBと略)

◎DLBにありうるパターン

  • 70代・80代の高齢での発症が多い。
  • 男性に多い傾向。
  • 見た目では元気のない暗いうつ的な感じの人が多い。
  • 体が斜めに傾いていることがある。
  • リアルな幻視がでることがある。
  • 歩行障害を中心としたパーキンソン症状がある。
  • レム睡眠行動障害がみられることがある。
  • 中期以降では認知機能や意識レベルが変動しやすい。
  • 薬剤に過敏性を示す。

●中核症状

・理解力と判断力の低下

・実行機能障害・・・物事を計画的に実行できなくなる。

・失認・・・・・・・・・・・物の形や配置を認識できないため、人物と認識できず、人と目をあわせないことが多い。

・記憶障害・・・・・・・初期は軽度で目立たないことが多いです。記憶障害の特徴は、見たもの、つまり目から入ってくる視覚情報を覚える能力が低下していることにあります。

○周辺症状としてでることがある症状

・無為、無反応

・幻覚(特に幻視)・・・子供や虫や動物などがリアルに見える。幻視に反応した行動や妄想も現れたりする。

・妄想・・・・・・・・・・・・・家の中に他人がいる。家人は別の人だ。ATDのようなもの盗られ妄想ではなく、夫あるいは妻が浮気をしているといった嫉妬妄想などが多い傾向です。

・うつ

・徘徊・・・・・・・・・・・・・せん妄や幻視が誘因で家中を歩き回ったり、レム睡眠行動障害で睡眠中に大声を上げたり暴力的になることもある

◉その他症状

・パーキンソン症状・・・
DLBはパーキンソン病に近い病気であり、パーキンソン症状が現れます。ただパーキンソン病でみられる手足の震え(振戦)はまれで、筋肉の緊張が強くなりこわばりがでたり、運動量が減り身体の動きが鈍くなるなどの症状が中心に表れます。前屈姿勢などもみられます。倒れそうになったときにとっさにバランスをとることが難しくなります。
 ➡転びやすくなるので注意が必要です。

・レム睡眠行動障害(RBD)・・・
レム睡眠は夢をみている時期の睡眠です。通常は夢をみていても声を出したり体を動かすなどは抑制されていますが、RBDではその抑制が不十分になり夢に反応して叫んだり暴れたりすることがあります。DLB発症の数年~数十年前から現れることもありDLBの前駆症状としても注意を要します。

・認知機能・意識レベルが変動する・・・
日にちや時間帯により意識がはっきりしているときとはっきりしていないときがある。認知機能の変動もあり認知機能が高い時とそうでない時がある。DLBにみられる特徴です。

・前頭葉の障害が強いケースでは、易怒・暴言・暴力・介護への抵抗などがみられることがあります。

・さまざまな薬に対する薬剤過敏性がみられることも多いです。たとえば認知症に使用するドネペジルでひどい興奮がでたり、その他少量の薬でも反応してしまうなどあります。

⦿てんかんの合併率10%程度

※てんかん発作の発現率は、DLBの進行に伴い上昇していきます。

(4).前頭側頭型認知症(FTLDと略)

◎FTLDにありうるパターン

  • 50~60歳位の発症が多い。
  • 性格変化での発症が多い。記憶障害は余り目立たない。
  • 歩行障害などの運動障害は末期までみられないことが多い。
  • 病識なく我が道をいく・・・
    馴れ馴れしい・横柄・機嫌がよかったのに急に怒り出す・身勝手・明るくぶっきらぼう・だらしなさ・無関心・共感性がない・道徳観の低下。
  • 社会的行動障害・・・
    平然と万引きや無銭飲食をするなどの反社会的行動がみられ注意すると暴力をふるったりする。
  • 常同行動・・・
    同じイスに座る、同じ店で同じものを食べる、甘いものばかり食べ続けるなど。

●中核症状

性格の変化

・判断力の障害

・実行機能障害・・・物事を計画的に実行できなくなる。

・失認、失行、失語

〇周辺症状

・易怒・興奮・暴力・暴言・介護への抵抗

・食行動、性行動障害

・アパシー・・・無気力、無関心になる。

・不安、焦燥

⦿てんかんの合併率;不詳

以上のように、4つのタイプの認知症には、精神症状は多くの方で出現し、てんかん発作が合併するケースも少なからずあります。

ご家族の方へ

〇かかりつけ医から情報提供いただけるようならお願いします。

〇認知症と診断された場合、ご本人・ご家族共に、動揺される方は多いと思います。また運転を継続することができなくなるなど現実的な問題が生じることもあります。種々の問題に関して、本人不在の状況で、ご家族と医師との間の面談が必要となるかもしれません。

〇ご家族からご希望があった場合、本人不在での診察は可能ですが、原則的にご本人の了解が必要です。状況により臨機応変に対応しますが、本人の了解が得られなかった場合はご家族からの情報提供としてあらかじめ当院にFax:026-286-0006するか、あるいはメモを診察日より前にいただけるとありがたいです。

○情報提供して欲しい内容例

  • 気になる症状がどのようなもので、いつから出はじめたのか
  • これまで進行・悪化した様子はあるか
  • 服薬中のお薬、何をいつから服薬しているか
  • 家族として心配なこと、気がかりなこと
  • その他